『神主の体験』その③ ~ 神に誓えますか? ~

 

「では、それぞれお一人ずつ、別々にお話を聞かせてもらいますね。」

「運転手さん、こちらへ来てください。 免許証はお持ちですか?」

とそれぞれ警察の方が二手に分かれて、実況見分が始まりました。

私は先ほどの記者の方にお話した通りの説明を淡々と行い、しばらくしてからお互いの走行状況を確認するためか、警察官2名がインカムを使いながら信号の変わるタイミングなどを計ったりしている様子でした。

その間、私は午後からの神事に影響が及ぶ事を心配して、神社へと食堂の柱にめり込んだ車の写メをlineで送ったうえ電話を入れ、事故にあって車が大破した為に午後の神事を代わって奉仕してもらう必要があるという事と、レッカーの手配が必要であるという事を連絡していました。

ひと通り連絡を終え、ふと相手の方を見るとそちらも警察との話は終わっているようでした。傍らにはいつの間にか別の女性が・・・

「あれ?同乗者いたの?」「だったらこの人が事故の瞬間の状況を見ていたのでは?」

しかし違ったようで、どうもたまたま道を歩いていたら事故の音に気付いて引き返して見れば、これもたまたまその女性と同僚で知り合いだったとの事。

その女性はなぜかそのままずっと、最後まで傍らに付き添っていました。

ほどなくして、話をした警官が渋い顔でこちらにやって来ておもむろにこう言います。

「実は、相手の方も信号は青だったようだ。と言ってましてね・・・だったようだ、と言うのはどういう事ですか?ちゃんと青だと確認されたんですか?と聞いても、はい。とおっしゃるんですわ。」

「ただ、向こうのかたがお話しされたように走行した時の信号のタイミングを見てみますとね、まぁ、赤なんですよね・・・」

「でも自分の前に2台か3台くらい他の車が居た気がする。ともおっしゃってますんで、ゆっくり進んでいくと途中で青信号には変わるんですよ。」

「双方の車にレコーダーも付いていないという事ですし、ちょっと見てみたんですが交差点を写してるようなカメラも見当たらないのでね・・・確証できる物も無いみたいですねぇ。」

「警察としては物損である限り、これ以上の介入は出来ないんですよ。後は当事者同士お互いの保険会社を通しての話し合いで解決して頂く事になりますね・・・。」

え?どういう事?

青やったって言ってるの?向こう。

は?なにそれ! しかもカメラ無い?

確証できる物ないって、じゃあどうすんの?

・・・っていうか、あの人いったいどうなってんの?

あれほど「すみません、すみません。」と言ってた相手が “ どうやら相手に大した怪我は無いようだ ”  “ ドラレコやカメラといった確証できる物は無いんだな ” と分かった瞬間から今までの態度を一転させ「自分の方が青信号だった。」と言い放ったのです。

(じゃあ、何か?こちらが赤信号なのに青だったと嘘をついていると!?)

すぐにでも反論したい気持ちを何とか抑え、今後は保険会社を通してお互いの話し合いで解決するようにと警察の方から説明を受けながら、心の中で

「この人はいったいどうしてしまったんだろう?正気なのかな?こんな状況でシラを切って、平気で嘘をつく?いや、普通は無いよな・・・まさか本気で青信号だったと思ってる?いやでも、最初から謝ってたよな。それって、自分の非を認めてた訳じゃなかったの?」

「おいおい、最悪の展開じゃん💦」と困惑しながらも「いや、やっぱり私の方が赤でした。」とか「すみません。実は信号は見落としてしまってました。」とか今からでも思い直してくれないだろうかと少しの可能性に期待をして待ってみましたが、結局は無駄でした。

説明を終えた警察の方が離れ、事故状況を記録するために写真を撮りに車の方へ行ってしまいました・・・。

 

“ 目は口ほどに物を言う ”

この人がもしかして本当に思い違いをしていて、純粋な心から言っているのか、それともこのまましらばっくれていれば、有耶無耶に出来るだろうという邪な心からなのか。

いったいどちらの了見でいるのかを確認する為。

そして、こちらの確固たる自信を相手に伝える為に私は、相手の目を真っ直ぐに見据え

「本当に青信号でしたか?」

「・・・神に誓って?」とゆっくりと静かに、しかし重い口調で尋ねました。

相手の方はうつむき加減で「・・・はい。」とか細く答えます。

(辛うじてこちらに目は合わせるも後ろめたいのか、どうにもいたたまれない。といった感情が目の奥に見て取れます。)

(あ~あ、神に誓っちゃったよ、この人。)

(思い直す最後のチャンスだったのに。)

 

事故に巻き込まれて、もしかしたら大きな怪我を負ってしまっていたかもしれないにも拘らず、暖かい「善」の心で対応して下さった食堂に居られた記者の方と、

それとは真逆に保身の為か、気の迷い?それとも魔がさしたのか、何にせよ人として犯してはいけない罪、嘘をつくという「惡」

この「善」と「惡」極端な人の心の有り様を見せつけられ、静かに怒りに打ち震えるしかない自分に苛まれるのであります。

 

『神主の体験』その④ ~ 神主の覚悟 ~ へと続きます・・・

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